旅と水彩画
旅とは一体何か、そして旅と水彩画の結びつきについてお届けします。
旅の中で感じたエピソードを通じて、旅とアートが一つになる喜びをお伝えします。
あなたの心に、小さな旅の風がそっと吹き込むようなひと時になりますように。
旅する時も 絵を描く時も
五感をフル活用したい
旅に出ると、日常の「なんとなく慣れてしまった感覚」がリセットされます。新しい土地の空気に包まれ、ワクワクとした気持ちにさせてくれます。
自然や街の様子すべてがとても新鮮に感じられ、自分の感性が普段より研ぎ澄まされていることに気づきます。
初めて見る景色、地元でしか味わえないグルメ、温泉の柔らかい湯気、古寺から漂うお香の香り、そして川のせせらぎ…。これでもかというほど、五感が総動員されて「生きてるってこういうことだ!」と叫び出しそうになります。
実は、絵を描く時も同じです。楽しんで描く時、あるいは本当に描きたいものに向き合っている時、心がワクワクし始めると不思議と筆が進む。旅先で五感が刺激されるように、創作の場でも五感が鋭くなるのです。
例えば、描きたいものをじっくり観察し、その色味や質感に触れることで、普段以上に「感じる力」が引き出されます。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚…どれ一つ取っても、「今ここにいる」感覚を教えてくれる大事なツールです。
旅や絵の楽しさをさらに味わいたいなら、まずは五感を磨いてみるのがいいでしょう。
五感を磨くと言っても難しいことではありません。
自分の耳や鼻、肌などに意識を集中させる、ただそれだけです。普段は無意識に働いている五感を敢えて意識することで、物から感じ取る量は何倍にも膨れ上がることでしょう。
2025,12/10
旅先の宿の夜
旅先で何度となく味わった鮎の塩焼き。特に思い出深いのは
京都・貴船の川床に伺った時の塩焼きです。
川辺の小石が敷かれた皿には、鮮やかな笹の葉に包まれた鮎の塩焼
き二尾。まんべんなく振られた荒塩が白く輝き、笹の緑とのコントラストがなんとも美しい一皿でした。
「食べるのがもったいない」と思いつつ、日本酒を片手に楽しんだあの夏の夜- - 随分と昔のことですが、今でも鮮明に思い出します。
これを水彩画で描いてみたいとずっと考えていましたが、残念
ながら当時の写真は残っておらず、半ば諦めていたのです。
そんな中、一昨年訪れた河口湖の旅館で、まるで貴船を思い出さ
せるような鮎の塩焼きと再会しました。
今回はその美しい姿を食べる前に何枚もカメラに収めたので、
絶好の取材となりました。
帰宅後、早速その写真をもとに描いたのがこちらの作品です。貴船の川床と河口湖、それぞれのイメージを融合させ、「どこそこの鮎」というよりも、旅先での夜の安らぎそのものを表現したつもりですが、いかがでしょうか。
「旅」と「旅行」の違いついて
旅と旅行は、どちらも「日常を離れる行為」という点では似ていますが、その意味や感じ方には少し違いがあると思います。
「旅」は、心や内面に目を向ける行為として捉えられることが多いです。行き先や計画が曖昧だったり、不確定なことを楽しむ感覚が特徴的です。たとえば、家の近くを歩きながら普段見過ごしている風景をじっくり見つめることも、立派な「旅」になるかもしれません。旅の魅力は、冒険や発見、そして成長につながる自由な時間を味わうこと。どこへ向かうかだけでなく、過程そのものに価値を見出します。
一方で、「旅行」はもう少し外側の世界を楽しむための行為でしょう。行きたい場所や目的地が最初から決まっていて、その場所で何をするかも計画されていることが多いです。また誰かと一緒に楽しむことが多く、観光地を巡ったり、美味しいものを食べたりと、日常をリフレッシュするための「楽しさ」を重視します。
旅は少しスリルがあったり、自分自身を見つめ直す時間が多いのに対して、旅行は安心感があり、のんびりとした時間を楽しむイメージがあります。どちらも素敵な体験ですが、そのときの気分や目的に合わせて選ぶことで、より豊かな時間を過ごせそうですね。
早朝の思い出
早起きをして真っ先に向かったのがモンマルトルの坂道です。
まだ道路には人がいなく、犬を連れ散歩をする女性を見かけた
だけでした。
早朝の街には何か想像を掻き立てるような不思議な魅力が
あります。喧噪とは無縁の静かな佇まいが、自由なインスピレーションを誘発させるのでしょう。
帰国してもその感覚がすっと残っていて、それを絵にしたのが
この作品です。
旅には普段では感じることのない感性を生み出す魔力のような
ものがあると、旅先の風景を描く旅に思います。
「朝の散歩道」(パリ・モンマルトル 2010年)
忘れられない風景
息子がまだ赤ん坊の時、祖母に預けて妻とヨーロッパ旅行をしました。我が子を日本に残しての旅だったので、少し切ないところがありました。そのせいかこの時の旅は他の旅行よりも強烈に印象に残っています。
この作品はラウターブルネン(スイス)という村の教会です。
人が誰ひとり歩いていなく、侘しさを感じながら2人でこの教会を眺めていました。
しかし雪が解け始め、春の息吹も少し感じられました。
「春を待つ」(スイス・ラウターブルネン 2010年)